大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和42年(ネ)124号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕第二 本案について。

一 控訴人が昭和四〇年一月一二日午前二時三五分頃高知市本町一八番地付近交又点に於て、当時被控訴会社の従業員であつた前田民夫の運転する軽四輪自動車(八高う三八七二号、以下本件自動車と云う)に衝突されて負傷したことは当事者間に争はない。

二 よつて控訴人の自賠法三条による主張について判断する。

<証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(一) 昭和三九年一一月一〇日当時控訴会社の経理課長であつた前田民夫は、従来通勤用に使用していた同人所有の自動車がいたんで来て買かえの必要にせまられたので、被控訴会社(自動車の販売を業とする)より本件自動車を、代金は一応三五万円として買受けることとなつたが、当時被控訴会社に於ては、従業員に自動車を販売する場合の社内販売規定を制定すべく同案の検討中であつたので、本件自動車の売買につき、代金額、その支払方法、その他の条件の最終的取きめは右規定が実施された後にすることとし、乗用車部販売部次長の指示により、取敢えず右自動車の所有名義並に使用者名義を被控訴会社として陸運事務所に登録し、これに伴い自賠法による保険契約に於ても所有者、使用者を共に被控訴会社として同会社が右保険契約を締結した上、その頃右自動車を前田に引渡した。尤も右登録費用並に保険料は前田に於てこれを負担した。

(二) 前田は右引渡を受けて以来、本件自動車を自己のものとして通勤用等に使用し、又社用で他へ赴く際にもこれを使用していたがそれは専ら前田の便利の為であつて、被控訴会社より右使用を命ぜられたものではなく、又右自動車のオイル代、修理代等も前田に於て支出して来た。尤も社用で使用した場合のガソリンは被控訴会社より支給された。

(三) その後昭和四〇年一月一日より前記社内販売規定が実施せられ、これによれば代金は月賦弁済することが許されるので、その頃本件自動車の代金を三六万円とし、これに月賦販売手数料(金利)一万〇、八九〇円(これは一般顧客に販売する場合より若干低額である)を加えて三七万〇、八九〇円とすること、この中二万円は頭金として支払い、残余は毎月五、〇〇〇円宛(但し六月、一二月は一万五、〇〇〇円宛)を月賦弁済すること、右代金完済までは本件自動車の所有権は被控訴会社に留保すること、等の条件が取きめられた。然し前記登録並に保険契約中の使用者名義を前田に変更する手続がとられないうち、同年一月一二日本件事故が発生した。

(四) 尚前記社内販売規定に於ては自賠法による保険料のほか任意保険の保険料も被控訴会社に於て負担することとされ、又自己所有自動車で通勤する者には被控訴会社より一ケ月五〇リットルを限度にガソリンを無償支給するが、一般従業員に支給する通勤手当は支給しないこととされ、而して前田は右規定実施後通勤用として一ケ月二〇リットルのガソリンを支給されたが通勤手当の支給は受けていなかつた。

(五) 本件事故は前田が夜食をとるため自宅より本件自動車を運転して本町中の橋方面へ向う途中惹起されたものであつて、被控訴会社の業務とは全く関係のない情況下に発生したものである。

(六) 前田は本件事故により同年四月末頃被控訴会社を退職したのであるが、その際被控訴会社に対し本件自動車の売買契約の存続を希望したが同会社の容れるところとならず、結局右契約は解除され、前田は二ケ月分の分割金を支払つたまま同年四月末頃右自動車を被控訴会社に引揚げられた。以上の事実によると、本件自動車は昭和三九年一一月一〇日頃売買により被控訴会社より前田に引渡され、爾来専ら前田が自己の通勤用等に使用して来たものであり、本件事故当時は未だ代金が完済されていなかつた為右自動車の所有権は尚控訴会社に留保されていたものの、それは単に代金債権を担保する為のものに過ぎなかつたのであり、前認定の事実に徴するとその運行支配は同訴外人に帰属していたものと認め得べく、右自動車の使用状況からするとその運行についてまで被控訴会社が前田に対し指揮監督をなすべき立場にあつたものとは認められない。又前田が社用で本件自動車を使用する場合には、勿論被控訴会社もその利益を受ける結果とはなるが、それはあくまでも間接的なものであつて、社用に使用するかどうかは右前田の意思によるものであり、而も社用による使用は本件自動車の運行の極く一部である点(前田は前記の如く経理課長の職にありセールスその他の外交事務の担当ではないから、社用による使用は僅かであると推認される)を考え併せると、右自動車の運行利益が被控訴会社に帰属していたものと認めることは出来ない。

三 そうとすれば、被控訴会社が本件自動車を自己の為に運行の用に供していたことを前提とする控訴請求は、その点についての判断をなすまでもなく失当であつて、これと同趣旨の原判決は正当であり本件控訴は理由がない。(合田得太郎 今中道信 林義一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!